まだレビュー段階ではあるが、LLVM に新たな GPUID: gfx1013 を追加するパッチが投稿された。
LLVM は AMD GPU における GPGPUプログラムのコンパイラバックエンドとして採用されている。
投稿したのは bcahoon (Brendon Cahoon) 氏であり、氏は過去にも AMDGPU に関連したパッチを投稿しており、また過去のコミットを見ればわかるが amd\.com ドメインのメールアドレスを使用している。LLVM における AMDGPU サポートに尽力しているソフトウェアエンジニア方がレビューに参加していることもあり、私的にパッチは信頼できるものと考えている。
gfx1013
AMDGPU における GPUID は Major, Minor, Stepping の 3つで構成されており、gfx1013 の場合は Major: 10, Minor: 1, Stepping: 3 となる。
AMD GPU の GPU ID は何を意味するか | Coelacanth’s Dream
Major: 10, Minor: 1 (gfx101x) には RDNA(1) 世代、または Navi1x 世代とも呼べる AMD GPU に割り当てられており、gfx1013 は新しく追加された GPUID ではあるが、RDNA(1)/Navi1x 世代の GPU に向けた GPUID だと考えられる。
疑問なのは、RDNA(1)/Navi1x 世代の GPU には Navi10 (gfx1010), Navi12 (gfx1011), Navi14 (gfx1012) が存在するが、gfx1013 が割り当てられるような AMD GPU に思い当たるものが無く、Linux Kernel や RadeonSI、RADV といったオープンソースドライバーにも現時点ではそうした AMD GPU のサポートに向けたパッチは投稿されていない。
Navi10ベース?
また、奇妙なのは gfx1013 は Navi10 (gfx1010) をベースとしているらしいことだ。
Navi12/Navi14 ではサポートしているドット積命令 (FeatureDot[1,2,5-7]Insts
) を Navi10 ではサポートしていないが、gfx1013 では Navi10 同様サポートしていないとされる。
ドット積命令は推論処理や深層学習の高速化に活用されることを想定しており、RDNA(1)/Navi1x 世代では前述にように対応が分かれていたが、RDNA 2/gfx103x 世代では確認できる限りすべての GPU/APU でドット積命令をサポートしている。
それらドット積命令はパックド実行に対応しており、(U)INT4/8/16,FP16 のデータならば FP32 で処理する場合と比べて理論上のピーク性能は最大2-8倍にもなる。
gfx1010
def FeatureISAVersion10_1_0 : FeatureSet< !listconcat(FeatureGroup.GFX10_1_Bugs, [FeatureGFX10, FeatureLDSBankCount32, FeatureDLInsts, FeatureNSAEncoding, FeatureWavefrontSize32, FeatureScalarStores, FeatureScalarAtomics, FeatureScalarFlatScratchInsts, FeatureGetWaveIdInst, FeatureMadMacF32Insts, FeatureDsSrc2Insts, FeatureLdsMisalignedBug, FeatureSupportsXNACK])>;
gfx1013
def FeatureISAVersion10_1_3 : FeatureSet< !listconcat(FeatureGroup.GFX10_1_Bugs, [FeatureGFX10, FeatureGFX10_AEncoding, FeatureLDSBankCount32, FeatureDLInsts, FeatureNSAEncoding, FeatureWavefrontSize32, FeatureScalarStores, FeatureScalarAtomics, FeatureScalarFlatScratchInsts, FeatureGetWaveIdInst, FeatureMadMacF32Insts, FeatureDsSrc2Insts, FeatureLdsMisalignedBug, FeatureSupportsXNACK])>;
gfx1013 が持つ新機能として、GF10_A
と呼ぶ命令フォーマットに対応しているが、現時点のパッチではどう活用するのかは示されていない。
def FeatureGFX10_AEncoding : SubtargetFeature<"gfx10_a-encoding", "GFX10_AEncoding", "true", "Encoding format GFX10_A" >;
ドキュメントにパッチにて追加された部分では、gfx1013 は dGPU だとしているが、確定している情報かは不明。
まだレビュー段階のパッチであるため今後変更される可能性は十分あり、これは他の点にも言える。
``gfx1013`` ``amdgcn`` dGPU - cumode - Absolute - *rocm-amdhsa* *TBA* - wavefrontsize64 flat - *pal-amdhsa* - xnack scratch - *pal-amdpal*
まだまだ正体不明の gfx1013 だが、今後さらなる情報が AMD のソフトウェアエンジニアよりパッチの形で公開された時はまだ記事にしたい。