しばらくぶりのメモリバス幅 32-bit AMD GPU であり、ほぼ確実に Polaris世代の製品でも最も下に位置する Discrete GPU だろう。
linux-firmware.gitレポジトリに、メモリバス幅を 32-bit とする Polaris12 ベース GPU のためのファームウェアが追加され、Linux Kernel における AMD GPU ドライバーにもそのファームウェアに対応するパッチが投稿されている。
Polaris12 は GFX8 世代の dGPU で、Polaris世代 ( Polaris10/11/12 ) の中では最も小規模の GPUチップ。
総 SE (ShaderEngine) 数は 2基、SE あたりの CU数は 5基で総数 10基、総 RenderBackend 数は 4基 (ROP: 16基)。メモリインターフェイスは GDDR5 128-bit (4ch x 32-bit) に対応し、その点では Polaris11 と同じだが、メモリサイドキャッシュである L2キャッシュはブロック (メモリチャネル) あたり 128KB となっており、他 Polaris GPU の 256KB よりも半分のキャッシュサイズである。1
- [PATCH] drm/amdgpu: add new MC firmware for Polaris12 32bit ASIC
- amdgpu: add new polaris 12 MC firmware
New firmware for polaris12 boards with a 32bit MC config.
GFX8 | Polaris10 | Polaris11 | Polaris12 |
---|---|---|---|
ShaderEngine | 4 SE | 2 SE | 2 SE |
CU per SE / Total CU | 9 / 36 CU | 8 / 16 CU | 5 / 10 CU |
Toatl RB | 8 RB (32 ROP) |
4 RB (16 ROP) |
4 RB (16 ROP) |
Memory Bus width | 256-bit | 128-bit | 128-bit |
L2cache size | 2048 KB | 1024 KB | 512 KB |
メモリバス幅が 32-bit の場合、通常とは違う特殊なメモリコントローラーに関するファームウェアが必要としており、その理由については GPU のメモリコントローラーが基本 64-bit単位であることが考えられる。
dGPU であり、メモリコントローラーも 64-bit単位でありながら 32-bit構成を採ることはまさに特異だと言える。他の Polaris12 をベースにする GPU製品を見ても、メモリバス幅は小さくて 64-bit となっている。
TechPowerUp の GPU Specs Database を参照してみたが、ATI/AMD GPU で最後に 32-bit構成の dGPU がリリースされたのは 2007/03 の ATI Mobility Radeon X2300 HD であり、実に 14年前となる。オープンソースコードから得られる AMD GPU の情報は GCN世代からが主ということもあるが、正直全く知らない GPU だ。
NVIDIA GPU では 2006/09 の GeForece Go 7200 が最後の 32-bit構成 dGPU らしい。2
メモリバス幅が 32-bit だと、GDDR5 7Gbps メモリチップを使用しても、ピークメモリ帯域は 28GB/s。
単純に比較すれば、メモリインターフェイスに DDR4 128-bit を採る APU だと、2133MT/s のメモリモジュールでもピークメモリ帯域は 32GB/s となるから、dGPU で GDDR5 32-bit というのは明らかに小さく、性能を追い求める向きは無いと見られる。恐らくは省電力で映像出力さえこなしてくれればいいような組み込み向けや、グラフィクス機能を持たない CPU と組み合わせることを想定した製品だろう。PCIeカード型ではなく、オンボード実装が主と思われる。
サーバーやワークステーション向けのマザーボードに実装されることも考えられ、自分としてはプロトタイプでは Radeon E8860 (10 CU, GDDR5 128-bit) を搭載していた AM4 A320チップセットマザーボード、Tyan Tomcat EX S8015 が思い出される。3 その後のリビジョンでは Radeon E8860 が外されてしまったが。4
AMD GCN GPU ということで Linux Kernel の AMD GPUドライバーを使うことができ、有効化されていればだが
マルチメディアエンジンも利用可能ならば、安定したサポートを受けられ、映像出力以外にも活用方法がある優秀な小型 GPU となるだろう。
そういう訳でメモリバス幅 32-bit の Polaris12 GPU が存在しても、一般に出回る可能性は低いと思われるが、32-bit幅の AMD GPU が 14年振りに登場し、驚くことに 14nmプロセスで製造される Polaris12 がそのベースとなる。
マイニング需要、半導体製品の供給不足が影響していることもあるが、やはり Polaris世代の GPU は長く、かつ幅広く活躍する働き者だと言えるだろう。
働き者のPolaris | Coelacanth’s Dream