Coelacanth's Dream

レイトレーシング対応が進む Intel Vulkan ドライバー、Windows ドライバーと共有のライブラリを導入

オープンソースで開発されている Intel GPU 向け Vulkan ドライバー Anvil (ANV) では、現在 Vulkan API におけるレイトレーシングのサポートが進められている。
コンパイラバックエンドにおける Intel GPU、主に DG2/Alchemist に向けたレイトレーシング機能のサポートは 2020/10/29 に公開され、2020/11/25 にマージされたマージリクエストで実装されていたが、その時はまだ Vulkan API のレイトレーシング拡張が策定途中であったため、それ以上の実装はされていなかった。1

先日、Intel ANV ドライバーにおけるレイトレーシングパイプラインのスタックサイズを設定する部分で、今までは BO (Buffer Object) を CPU側のシステムメモリに割り当てていたのを GPU VRAM (ローカルメモリ) に割り当てるよう変更するパッチが Intel の Lionel Landwerlin 氏によって投稿された。2
パッチに付けられていたコメントに 「Like a 100x (not joking) improvement.」 とあったこともあり、話題となっていたが、それまでシステムメモリへの割り当てにより性能への影響が気付かれなかった理由には、Vulkan レイトレーシングの実装がまだ途中であったことがあるだろう。
なお、同じく Lionel Landwerlin 氏によって、可能な場合は常にローカルメモリを使用するパッチ、マージリクエストが公開されており、同様の問題への対策が行われている。3
また DXR に対応する Windows ドライバーでは以前より実装されていたことから、同様の問題は無かったと考えられる。

GRL, Graphics Library for Ray-tracing

現在 Intel のソフトウェアエンジニア、Jason Ekstrand 氏、Jordan Justen 氏、Lionel Landwerlin 氏、Ivan Briano 氏、Caio Oliveira 氏らによって進められている Intel ANV ドライバーへのレイトレーシング実装では DG2/Alchemist を対象としている。

そしてレイトレーシング処理に必要なトラバーサルシェーダや交差判定、ソートを GPU 上で実行するための手段として、OpenCLカーネルと独自フォーマットのメタカーネルが採用されている。
メタカーネルとそのライブラリは GRL, Graphics Library for Ray-tracing と呼ばれ、Windows ドライバーと共有のライブラリであることが語られている。
AMD GPU 向け Vulkan ドライバー RADV でも近い手段を採用しており、ソートをコンピュートシェーダで実装し、ドライバーのビルド時にコンパイルして組み込んでいる。

 GRL, or Graphics Library for Ray-tracing is a library we share with the
 Windows drivers for doing BVH builds on the GPU.  It consists of a few
 headers shared between CL and C code, a bunch of CL kernels, and some
 GRL meta-kernels in their own format.

Intel は Architecture Day 2020 にて、LLVM ベースの Intel Graphics Compiler (IGC) を Windows ドライバーのバックエンドに採用し、内部では Mesa3D におけるオープンソースドライバーにも IGC を採用したプロトタイプをj実験的に開発していることを発表していた。4
プロトタイプに関する発表はその後行われていないが、今回の GRL 導入により、オープンソースドライバーと Windowsドライバーとの一部ドライバースタックの共通化は引き続き取り組まれていることがうかがえる。

参考リンク